チタキヨのヨ

妙齢女だらけ演劇ユニット「チタキヨ」の作・演出担当、米内山陽子のあれこれ

降ったり晴れたり

世間は3連休。

わたし30歳。

10日に、地元の母親学級で知り合った人から、赤子誕生の報が届く。

5人のうちの2人が産まれた。

おめでたい。そしてうらやましい。

しかし「陣痛に気付けなくって、検診に行ったらそく分娩室だったよー」という

報告に、空恐ろしくなる。

わたしは、気付けるんだろうか。

11日。誕生日。

夫は会社が休みだったので、食事に連れ出してもらう。

「何食べたい?」と聞かれ、「ふかひれ!」と答え、ふかひれ食えるとこに行くが、

結局ふかひれは食わない。

荻窪ルミネで膝掛けと、赤子のおもちゃを買う。

赤子のおもちゃは、津川雅彦の店で買ったのだが、

店員さんが、なんていうか、いい人なんだけど・・・いい人なんだけど・・・

なんとなく、「障る」人だったなぁ。

あれは何故かなぁ。

久々に自宅で一泊。

ああ、ここが我が家よのう。

変な時間に中華を食したので、夜は特に食べる気になれず、なんとなく寝てしまう。

誕生日は、こうしてだらだらとすぎていくもんだな、なんだか毎年。

翌12日。

自宅でテレビ見たり、PCチェックしたり、ぼんやりと過ごす。

昼はパスタ作る。

相変わらず、前駆陣痛はくるのだが、確信が持てない。動くし。

陣痛が来やすい、ジンクスみたいなもんはないものか、と調べていると、

「焼き肉」がものすごい評判がいい。

読み進めるうちに、ものすごいポジティブな気持ちになり、

焼き肉を食することにする。

焼き肉で何が好きかって、ミノが好きです。

あとホルモン好きです。

レバ刺し好きです。

冷麺好きです。

夫は圧倒的にカルビとハラミであるようで、

こういったところで好みが分かれるのはいいことだ。

焼き肉にはビールが一番だと思う。

なので、ビールのない焼き肉は少し悲しい。

ごはんよりはビール。ビール。ビール。

早く飲めるようになりたい。

テーブルの横をすり抜けて運ばれていく生ビールに、

あついマナザシを送る。

デザートにアイス買って、実家へ。

初めて1時間に8回程の痛みがくる。

これが焼き肉パワーなのか!そうなのか!

夫と家族が色めき立つ。

しかし、わたしの心がなんだか不安がっている。

これがそうなのか?違うんじゃないのか?でもそうだったら・・・。

痛い腹をおして、インターネットなどでいろいろ調べてみるも、

全く確信が持てない。

しかし「陣痛に気付かない」こともあるんだ。

どっちだ、これは。

夫に「とにかく産院に電話して聞いてみよう」と言われ、産院に電話。

「いったん来てみて、陣痛か調べてみましょう」と言われたので、

痛みを促すためにも、ゆっくり徒歩で産院へ向かう。

玄関で家族全員が見送ってくれる。

うれしい。

産院は真っ暗。

入り口から入ると、すぐに助産師さんが出迎えてくれる。

下を脱いで、産褥ショーツとナプキンをあて、

腹にベルトを巻き(NST)、血圧計を巻き・・・

とにかく、1時間はここで様子を見るようだ。

静かな部屋に、NSTから中の人の心臓の音が響く。

血圧は高い。

腹は一度張ったきり。

多分、陣痛は、逃げた。

夫も助産師さんも「イインダヨ!」と言ってはくれたが、

なんだか申し訳ない気持ちになる。

一時帰宅。様子見。

あれだけ騒がせてしまったのに・・・と、思わないようにしても、思ってしまう。

「産む産む詐欺」という言葉が頭をよぎる。

なんじゃそりゃ。

NSTとはノンストレステストの略。お腹にベルトを巻きつけて、電極を取り付け、赤子の元気っぷりとかお腹の張り(陣痛)とか調べる検査。

13日。体育の日。

胸の痛みで目が覚める。

ぐっと押されるように痛い。

昼食をとりながらも、断続的に痛い。

なんだこりゃ。

大きな公園に行きたいと夫にねだり、小金井公園をめざす。

が、世間はさすが体育の日。

恐ろしい程の道路渋滞。

駐車場にも入れない。

引き返して井の頭公園を目指す。

これなら電車で来れば良かったねー。などと言い合いながら井の頭公園に着くと、

これまた駐車場にはいれないので、近場のデパートの駐車場に入る。

書店をひやかして、丸井のGAPをひやかして、公園へ向かうと、

これまた人、人、人。

休みの日でもこんなに人いたっけ?と思っていたら、

公園で何かイベントをやっているようだ。

ホットドックを買って、適当なところでボンヤリするが、

人の量が半端でないので、あきらめて帰ることにする。

それにしても、GAPで見た、ダウンがかわいかった。

半額なら買うのになぁ。

セールしないかなぁ、あれ。

夕食前にまた胸が痛む。

インターネットで調べてみるが、特に何も載ってない。

弟は「母乳を製造する痛みでは?」と言うが、

これがそうならぞっとする。

ほどなく痛みは消える。

夕食は、さんまと湯豆腐。

テレビで大橋のぞみと藤岡藤巻を見る。

大橋のぞみのほっぺのかわいさが異常。

あの子のすれてなさが異常。

おっさん二人の枯れっぷりが異常。

見るたびに目が離せない。

夜、夫とモンハンを久しぶりにする。

中の人の夢を見た。

起きてから全く思い出せないが、顔がはっきり見えて、

ひたすらにかわいかった。

ずっと「かわいい」と言っていた。

予定日をすぎて、周りの人から「まだ出ていないのか」と言われることが増えた。

そうなんです、まだなんです、早く出てきてほしいんです。

と、愛想笑いで答えるしかない。

穏やかな気持ちでいるときは「のんきなんだね」と思える。

そうでないときは、いろんな気持ちになる。

いろんな気持ちっていうのは、いろんな気持ちだ。

焦りとか、自己嫌悪とか、後悔とか、悲しみとか、

一つの感情は長続きしないが、めまぐるしく気持ちが回る。

方丈記の世界だ。

ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。

よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。

いい感情も、良くない感情も、長続きしない。

そこは救いですね。